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「車の時間、歩きの時間」

 3月に入って、吹く風とまちの景色が一変した。本州で一番早く春が訪れる紀南の沿岸部では連日、気温が15度前後となり、夜間の寒さも格段にやわらいだ。

 ▼田辺の市街地では梅の花が盛りを過ぎ、代わって民家の軒先でジンチョウゲが芳香を放っている。本社の隣にある医院の庭ではハクモクレンの白い花が満開。例年のことだが、この花を見るたびに春の到来を実感する。

 ▼昼休みに歩いた会津川の堤では、名前も知らない草が日ごとに緑の葉を伸ばし、近くの畑では寒さに耐えて育ったホウレンソウが収穫期を迎えている。日当たりの良い畑では、レンゲの花も咲いている。

 ▼こうした季節の移ろいを目で追い、実感できるのは、周囲を見渡しながらゆっくりと歩いているからだ。車で走っていると、こうはいかない。前後左右に目を配って安全運転を心掛けるのに忙しい。

 ▼車を利用すれば雨の日もぬれることなく、短い時間で目的地に到着できる。しかし、その利点を考慮に入れても、こうした季節の移ろいを見落としてしまうのは残念でならない。

 ▼考えてみれば、私たちは目先の便利さや損得を追うのに忙しく、数多くの大事なことを見落としているのではないか。お金や時間に換算できない友情や信頼、自らの可能性……。

 ▼目先の利点を追うだけではなく、たとえ回り道をしてでも、じっくり考えを巡らせる時間を大切にしたい。車の時間よりも、歩きの時間である。(石)

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