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「通過儀礼」

 人生には節目ごとに果たすべき通過儀礼がある。その一つが成人式。ところが晴れの日に晴れ着を渡せなかった着物販売レンタルの経営者が「当事者たちの気持ちを踏みにじった」と強い非難を浴びた。

 ▼数多くある通過儀礼は、時にさまざまな悲喜劇を呼ぶ。山藤章二氏は週刊朝日の『ブラック・アングル』で知られる人気似顔絵作家として有名だが、彼が婚約した女性の父親に、事前のあいさつを果たさなければならなくなった。

 ▼その著書『はじめての八十歳』(岩波書店)によると、義父は古い職人気質の人だったが、当日のあいさつも順調に進んで意気投合し、なじみのすし屋に連れて行ってくれた。見ると大皿いっぱいに大トロの握りが並ぶ。「若い二人じゃ、大トロなんて簡単に食べられないだろう」と、事前に店に頼んでおいてくれたのだ。

 ▼奥さんになる人は5歳年上だったから、義父はそのとき「世間によくあるように、先行き若い娘に乗り換えようなどいう気にならないように」とだけ注文した。

 ▼大トロは50個。さすがに多過ぎたが、義父の好意は素直に受けようと、頑張って全部平らげた。一方でそれは「私は飽きたり心変りなどはしない男です。どうぞ安心して娘さんとの結婚を許して下さい」という山藤氏の決意の表明でもあったそうだ。

 ▼「しかし、本音をいうと他のネタも食いたかった」と軽妙に結ぶ。長い人生、そりゃそうだろうなあ。 (倫)


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