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「言葉に敬意を」

 三浦しをんさんの小説『舟を編む』(光文社)にこんな一節がある。「ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かび上がる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、思いを誰かに届けるために」。

 ▼別のページでは「言葉とは、誰かを傷つけるためではなく、誰かを守り、誰かに伝え、誰かとつながりあうためにある」とも書いている。言葉によって物語を紡ぐ作家ならではの文章である。人間が武器ではなく、言葉を持って生まれてきたことへの敬意と感謝の気持ちの表現でもあろう。

 ▼ところが昨今、人間社会には「誰かを傷つける」言葉があふれている。匿名に隠れた根拠のない発言が横行し、人を傷つけて恥じない。議論は成り立たず、言葉によって問題を解決する知恵は退化する。

 ▼そうした風潮に流されたのか、国会では多数派が少数派の質問時間を制限しようと提案した。

 ▼一方的な言い分である。質問によって問題点を明らかにする。主張を尽くして妥協点を見つける。政府の方針に疑問があれば、それを追及し国民の判断を仰げるようにする。それが国会の役割であり、そうした仕組みがこの社会を支えていることに対する理解と敬意が欠けているのではないか。

 ▼「問答無用」ではなくて「話せば分かる」。互いに腹を割って話し合い、互いが分かり合えるように説明する。そのために言葉がある。その価値の尊さにもっと目を向けようではないか。 (石)



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