AGARAKiiLifeみかんKiiSearch

「山の作家」

 田辺市中辺路町に住む、宇江敏勝さんの新刊『熊野木遣節』(新宿書房)を一気に読み上げた。

 ▼狩川と呼ばれる木材流しに従事する男たちの心意気を描く「熊野木遣節」、赤ん坊を健康に育てるための子捨て習俗に想を得た「七はぎの産着」から、水源のない田んぼに稲を植える苦労を描いた「天水田」、頭上に重い荷物を載せて運搬する5人の女性を主人公にした「いただきの女たち」まで7編を掲載している。

 ▼すべて、3月から7月にかけて老舗の文芸同人誌「VIKING」に発表された作品。それがみな面白い。自ら見聞してきた熊野の「里の暮らし」が、なじみ深い「里のことば」を自在に操って生き生きと描かれているからだ。

 ▼物語に登場する女性に注ぐ優しいまなざしがとりわけ心に残る。三重県の漁港から果無の山中まで出稼ぎに来た5人の女性、夫を戦争で亡くした若い未亡人、里の暮らしを守り続けるお年寄り。連作の主役でもある彼女らに、失われつつある故郷の姿を映し、愛惜の気持ちを注いでいるからだろう。

 ▼宇江さんは今年80歳。山林の伐採や造林、製炭やいかだ流しの実像を記録する作家として比類ない評価を得ているが、最近は自らの見聞に想像力を膨らませ、現実と虚構の間を往来して作品の幅を広げている。

 ▼いまも毎月、同人誌に作品を発表し、年に一冊の出版を自らに義務付けているという。意欲あふれる作家の次回作も待ち遠しい。 (石)



更新)