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「中秋の名月」

 10月を待ちかねたように朝夕が涼しくなってきた。空は澄み渡り、色合いも夏とは確実に違って見える。夜になると、さえざえとした月の光がこの世を照らしてくれる。

 ▼江戸中期の俳人、横井也有に「蚊の一つ残るも見えて今日の月」の句がある。夏には全盛を極めた蚊が姿を消し、わずかに残った一匹が月の光に照らされているというのだから、なんとも細かい観察眼だ。こうした句に接するたび、人々が自然とともに生き、その恵みを生活のあらゆる場で実感していた様子がしのばれる。

 ▼月の呼び方一つをみても奥が深い。旧暦8月15日は中秋の名月。その前後は十三夜から小望月、十五夜、十六夜、立待月、居待月、寝待月。月の満ち欠けに合わせて一夜ごとに名前を付け、その美しさをたたえて祈りをささげてきた人々の感受性と表現力の豊かさに驚嘆する。

 ▼文明が進み、情報化社会が発達した一方で、こうした繊細な感覚や天の恵みに感謝する気持ちが失われつつあるのではないか。政治家を筆頭に、いまは自分さえ良ければという強欲な人が増えているのではないか。

 ▼江戸後期の禅僧、良寛に「月の兎」という詩がある。見知らぬ老人の飢えを救うためにわが身を焼いてささげたウサギの物語である。与謝蕪村もまた「月天心貧しき町を通りけり」と詠み、分け隔てなく人々に降り注ぐ月の光に心を寄せている。

 ▼こうした情感を大切にし、後世につないでいきたい。 (石)



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