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「火まつり」

 8月下旬に二つの火祭りを取材した。一つは那智勝浦町の二河の火祭り。約500年前、寺院裏山の宝篋印塔(ほうきょういんとう)に祭られた霊を供養するために始まったという。白装束の男たちがお堂の上に張り巡らせた鉄線めがけて松明(たいまつ)を投げる。その炎で山全体が燃えているように見える。

 ▼もう一つは田辺市本宮町の八咫(やた)の火祭り。1999年の南紀熊野体験博をきっかけに創設された。神武天皇を導いたという八咫烏をあしらった炎の神輿(みこし)や時代衣装の女性らがろうそくの火に導かれて本宮大社旧社地に進む。

 ▼熊野の火祭りを代表するのは那智大社の扇祭りと新宮・神倉神社のお燈まつり。扇祭りは、那智の滝がある飛瀧神社に続く石段を12本の大松明が練り歩く。昼なお暗い参道に松明の赤い炎がゆらめく。

 ▼お燈まつりは、松明を持った2千人の男たちが538段の急な石段を一気に駆け降りる。玉垣内でじらされ、山門が開くと同時に炎の帯となって飛び出す様子は、命が誕生する瞬間のような躍動感にあふれる。

 ▼新宮市出身の芥川賞作家、中上健次の「火まつり」は、大詰めでお燈まつりを描く。荒れ狂った男はまつりの翌日、猟銃で一族7人を殺害し自殺する。実際に起きた事件が題材。動機ははっきりせず、映画も小説も後味が悪い。

 ▼鎮魂、畏敬、誕生、命の終わり。火は人の心にさまざまなものを映し出すのだろう。 (長)



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