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「寅さん映画」

 8月4日は渥美清の命日。死後二十余年になるのに、代表作「フーテンの寅さん」にはまだひかれ続け、テレビで再放送があると必ず見る。

 ▼寅さんにとらわれ続けた評論家の川本三郎氏が、会心の作『「男はつらいよ」を旅する』(新潮選書)を出版した。彼の経歴が特異だ。週刊朝日の記者だったが、入社して数年後の1972年、朝霞自衛官殺害事件の関連で逮捕され、有罪判決を受けた。懲戒解雇された後、ルポ作家、評論家に。

 ▼体験記が映画化され、数々の著書で複数の文学賞を受賞した。寅さん映画の主題歌「どぶに落ちても根のあるやつは、いつかは蓮(はちす)の花と咲く」を地で行くように、見事な花を咲かせた人だ。

 ▼寅さん映画は計48作。古ぼけたトランクにせったばきで、北海道から沖縄までを旅した。今の日本で失われた風景と人情が満載のロードムービーだ。川本氏もその跡をくまなくたどった。

 ▼寅さんは徹底した負け犬に見える。第1作で柴又帝釈天のお嬢さんにほれるが、手ひどく振られる。痛手で旅に出、駅前の安食堂でラーメンをすする。哀れな自分に耐えきれなくなって泣きだす。その涙がラーメンの汁と混じる。主題歌にあるように「奮闘努力のかいもなく、きょうも涙の日が落ちる」のだ。

 ▼次作からも基本パターンは同じだ。けれどもそんな負け犬の寅さんに、この年齢になってまだ共感する。自分でも驚くが、やはり同類に違いない。(倫)


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