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「『仁』を忘れるな」

 先日の本紙「故郷への便り」に掲載された住友病院院長、松澤佑次さんの随筆が心に響いた。とりわけ、どんなに人工知能が発達しても医学、医療の現場では、思いやりや愛を意味する「仁」を忘れてはならないという主張に感銘を受けた。

 ▼松澤さんは「森羅万象の事象は、物と心の相交えるところにある」という南方熊楠の言葉を引いて「これこそが医学、医療の本質」と強調し、どんなに科学技術が進展しても「医は仁術」という言葉を忘れるな、と説かれている。

 ▼医療だけではない。いまは何ごとも目先の効率を優先する考え方が幅を利かせている。一方で折衷とか、折り合いを付けるとかの発想は顧みられない。過去に学び、未来を展望するゆとりも失われている。本来は、将来を見据えて取り組まなければならない政治も教育も例に漏れず、目先の利害、数字だけで答えを出そうとする。

 ▼人間の営みはそんなに短絡的ではない。物と心の相交えるところ、つまりは精神世界と物質文明のバランスが取れて初めて健全な形が生まれる。相手を思いやり、慈しむ心があってこそ、この社会は安定し、人々が安心して住めるようになる。

 ▼そこがポイントである。弱者の視点を顧みない政治、点数だけですべてを判断する教育、当座の稼ぎに一喜一憂する企業。それぞれに行き詰まりの兆候が見える時代だからこそ、改めて「仁」という言葉が輝きを増す。そこに思いをはせたい。 (石)



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