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2024年05月20日(月)

SNSの“偽広告”問題は「単に普通に対応すればいい話」【坂口孝則連載】『オリコンエンタメビズ』

経営コンサルタント・坂口孝則氏
経営コンサルタント・坂口孝則氏
 日々話題を集めるニュースをもとに、経営コンサルタント・坂口孝則氏が背景を解説する『オリコンエンタメビズ』。今回は、インスタグラムやフェイスブックなどで問題視されている著名人になりすました詐欺広告への見解をまとめた。

【Xより】「なめてんの?」前澤友作氏が憤りの声

■詐欺広告を見抜く力と免疫

 数年前に、息子が小学生だった頃。「パパ、神様っているの?」と質問されました。そこで、私は金融業者の前に連れていき、給料日に大半の借入金を返済している人たちのさまを見せました。「神様がいたら、こんなに残酷なことをすると思うか?」と伝えました。

 しばらくしたのちに息子は、ネットで金儲けの方法を宣伝する動画を見つけたようで、私に感想を質問してきました。「本当に確実に儲かる方法があったら、自分でやっているだろ。この低金利時代に資金を集めてこられなかったら、そいつはヤバいぞ」と言いました。

 夢のような方法は存在しない。公開されている以上の秘密は探しても見つからない。幻想は犬にでも食わせておこう。こんな教育をしていますので、ネット上であふれる、有名人を使った詐欺広告にはだいぶ早い段階から免疫をつけています。

 しかし、ここで忘れてはいけないのは、とはいえ騙される側が悪いのではなく、あくまで騙す方が悪いという点です。そうでなければ社会は成り立ちません。

■Meta社のフェイスブックに掲載され続けた、有名人を起用した投資偽広告

 以前に、日本企業の謝罪会見を見ていた米国人が驚いた様子で教えてくれました。たしか販売商品の品質不具合についての会見でした。

「おい、いま社長が謝っているけれど、責任はこの企業にあったのか」
「いや、それは調査中だけど、まずは謝っているんだよ」
「責任が明確じゃないのに謝っているのか?それは理由が不明確なのに責任を認めたことになる。業績の悪化は避けられず、株主からの訴訟リスクがあるじゃないか」
「いや、違う。だから、社長は、世間を騒がせたこと自体を謝っているんだ」
「自分たちの責任じゃないのに、か?」
「そして、まわりに迷惑がかかった、その点のみを謝罪しているんだ」
「それは記者が理解しているのか」
…といった会話をしました。

 私がこれから述べたいのはMeta社の偽広告問題ですが、この会話を思い出していました。

 Meta社の問題については、よく知られています。フェイスブックなどで、有名人が知らずのうちに“起用”され、広告が掲載。通常のユーザーは、まさか偽広告とは知らずにクリックします。多くは、投資などの利殖方法を伝えるものであり、LINEグループなどに加入する導線になっています。そこから個人情報を抜かれたり、高額商品を買わされたり、セミナーに参加させられたり…といった流れです。いわゆる投資の偽広告ですね。

 有名なところでは、森永卓郎さん、堀江貴文さん、池上彰さん、前澤友作さんなどです。フェイスブックを運用するMeta社は、偽広告の拡大に際してコメントを出しました。このコメントがなかなかの香ばしさでした。オンライン詐欺は「社会全体の脅威」とし、「社会全体のアプローチが重要だと考えます」と述べた。偽広告に使われた当事者からすると、Meta社の当事者性が感じられないものでした。

 実際に前澤友作さんは「なめてんの?」と率直にコメントしています。前述の通り、簡単には謝れない同社の立場もあったと思います。

■偽広告を防ぐ提案

 実は、私は「偽広告を防ぐ提案」について書くのを逡巡しています。というのも、単に普通に対応すればいい話だからです。

 例えば先にあげたケースでいえば、森永卓郎さんとマネージャーを知っています。聞くところによると、詐欺広告が使われている事実について、何度か同社にメールしたが無視されていたそうです。

 もちろん、すべてのユーザーからのクレームに対応しろ、とはいっていません。ただし
・詐欺広告が社会的に問題になっている時に
・日本でもっとも詐欺広告に使われている人物から連絡があり
・それを放置していた(本人確認なんていくらでもやりようがあるでしょう)
という事実からすると、Meta社が真剣に対応していたようには感じられません。なお、森永さん以外にもSNSで自身が詐欺広告に使われていると発信する方は多くいました。

 私がもっとも気になるのは、Meta社でフェイスブックを使用している社員は、詐欺広告と気づいていなかったかどうかです。私がわかるくらいだから、相当数の社員は詐欺広告が載り続けていると理解していたはずで、それを消すだけでも問題は解決するのではないでしょうか。

 まったく難しい話ではなく、中長期的な観点から見て、偽広告の排除を真剣に考えたいものです。

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